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右横の次は左横。
左横の次は前髪。
里子はハラハラ落ちて行く髪の毛を見送りながら、必死で抵抗した。
「暴れたら手が滑るわよ? 髪の毛どころか、嫁に行けない傷が残るわよ?」
悦に入った声を無視して、それでも里子は屈しない。
ようやく右手を振りほどきかけると、残った2人の援護が入り、もう抗う余地が無くなった。
悔しい。
喚き散らしたくて仕方ない。
でもそんな事したら泣きそうだ。
私は絶対泣かない。
そのハサミで顔を傷つけられたって、この6人に絶対涙は見せない。
「次後ろいこっか~っ」
ハサミを開閉しながら背後に回って来た。
これが最後の『入刀』になるのかしら。
観念しながらただじっと待っていたその時。
初冬の低い空全体に、場違いな音色が響き渡った。
硬軟が接触する痛々しさ。
校内の静けさを破るには、あまりに滑稽な音色だった。
里子は驚愕して後ろを振り返った。
身動き出来た事に、遅れて驚愕した。
他の5人も里子を解放して音源を振り返っていた。
見ると、地面に赤いポリタンクが間抜けに横たわり。
ハサミを持ったゲリラ隊員が、頭を抱えてしゃがみ込んでいた。
何が起きたのか、全く分からなかった。
「いったぁ……い。誰よっ!こんなの投げたのっ!」
ポリタンクを右側頭部に受けたゲリラ隊員が振り返ると、それに倣って全員が同じ方向を見る。
数メートル先に立っていたのは、能面のような無表情の黒川悠一だった。
「黒川くん?!」
口々にその名を叫んだ6人は、気の毒なほど動揺した。
地面に落ちた里子の髪の毛を、慌てて足で拡散させた。
悠一はゆっくり近付いて来た。
里子はとっさに手探りで自分の今の頭の状態を確認する。
両耳の横が半分ほどと、前髪が一部分。
落ちた髪の毛に比べて被害はそれほど大きくない。
何となくホッとするも、悠一を直視は出来なかった。
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