5.三笠の危機

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右横の次は左横。 左横の次は前髪。 里子はハラハラ落ちて行く髪の毛を見送りながら、必死で抵抗した。 「暴れたら手が滑るわよ? 髪の毛どころか、嫁に行けない傷が残るわよ?」 悦に入った声を無視して、それでも里子は屈しない。 ようやく右手を振りほどきかけると、残った2人の援護が入り、もう抗う余地が無くなった。 悔しい。 喚き散らしたくて仕方ない。 でもそんな事したら泣きそうだ。 私は絶対泣かない。 そのハサミで顔を傷つけられたって、この6人に絶対涙は見せない。 「次後ろいこっか~っ」 ハサミを開閉しながら背後に回って来た。 これが最後の『入刀』になるのかしら。 観念しながらただじっと待っていたその時。 初冬の低い空全体に、場違いな音色が響き渡った。 硬軟が接触する痛々しさ。 校内の静けさを破るには、あまりに滑稽な音色だった。 里子は驚愕して後ろを振り返った。 身動き出来た事に、遅れて驚愕した。 他の5人も里子を解放して音源を振り返っていた。 見ると、地面に赤いポリタンクが間抜けに横たわり。 ハサミを持ったゲリラ隊員が、頭を抱えてしゃがみ込んでいた。 何が起きたのか、全く分からなかった。 「いったぁ……い。誰よっ!こんなの投げたのっ!」 ポリタンクを右側頭部に受けたゲリラ隊員が振り返ると、それに倣って全員が同じ方向を見る。 数メートル先に立っていたのは、能面のような無表情の黒川悠一だった。 「黒川くん?!」 口々にその名を叫んだ6人は、気の毒なほど動揺した。 地面に落ちた里子の髪の毛を、慌てて足で拡散させた。 悠一はゆっくり近付いて来た。 里子はとっさに手探りで自分の今の頭の状態を確認する。 両耳の横が半分ほどと、前髪が一部分。 落ちた髪の毛に比べて被害はそれほど大きくない。 何となくホッとするも、悠一を直視は出来なかった。  
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