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朝から悠一は憂鬱だった。
何の因果かこんな姿で生を受け、反れることなく成長し、そして気が付けば、周りに『麗人』と呼ばれるようになっていた。
自分の一挙手一投足が、時に一方的な『期待』と『誤解』を植え付ける現実に、ある意味恐怖さえ覚えたこともある。
17年も生きていればパターンも覚え、それを避けるための言動が、いつしか自分を冷徹男と呼ばしめる原因となっていた。
後悔した事は一度もない。
むしろ静かな環境が自分に合い、今では面倒ないざこざから身を守る格好の楯だと思っている。
―昨日の一件から夜が明けた今朝、一緒に登校した別れ際に、伸一の口が忙しく開閉した。
『兄貴、昇さんの変貌のこと、三笠先輩にちゃんと説明しろよ? ついでに三笠先輩自身の様子も要チェックな? 依頼はウチじゃなくて、除霊関係の権威に頼んで、えーっとそれからそれからやーーんっ』
『分かってる。あれで日常送ってる方がおかしいからな』
頭を抱えて悲鳴を上げる弟に蔑んだ一瞥をくれて、結局名残惜しそうに校舎へ去って行く背中に右手を上げたのだが。
さて、一体どうやって三笠を呼び出そう。
他の生徒の面前で自分が呼び出せば、必ず噂になる。
かといって他人を介せば、あらぬ憶測がよりいっそう強大な噂を作り出す。
ああもう頭が痛い。
なんで相手が女子なんだ?
1限目の現代文までの僅かな休み時間を、こうして思案に利用すべきか悩んでいたら、突然誰かに背中をつつかれた。
無言で振り返ると、知らない男子生徒が立っていた。
「……何奴?」
「里子の幼なじみ。これ渡せって」
無愛想に右手を伸ばし、折り畳まれた紙切れを突き出す。
悠一は受け取る前に首を傾げた。
「サトコとは?」
途端に男子生徒の表情が一変した。
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