2.謎

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昇が曲がった角を入ると、走り去る背中が小さくなっていくところだった。 慌てて追おうとして、伸一は足を止めた。 1人の男性が、呆然と立ち尽くして昇の背中を見送っていたからだ。 「何かあったんですか?」 どこかまた角を曲がったのだろう。 既に姿が消えてしまった先を見つめながら、伸一は笑顔で背広姿の中年男に近づいた。 男は面食らった風情で首を左右に振った。 「さぁっぱりだねぇ。オレの顔見るなり、『うっぎゃ~!』だよ。こっちだって『うっひゃーっ!』だっつーの」 真顔で語る男の言葉に、思わず吹き出しそうになる。 この男が一体どうしたというのだろう。 見たところ普通のサラリーマン。 成金でもホームレスでもなさそうだ。 「お知り合いとか?」 「いんや!」 そこで伸一はハタと気が付いた。 「……おじさん、それ、最初から吸ってた?」 「は? こいつか? いんや、さっき火をつけたばっか」 親指を立てた右手の人差し指と中指の間で、煙草が煙を漂わせている。 「もしやライターで? さっきの人のすぐ前で?」 「ライターで。さっきの人とすれ違う前に」 まるで棒読みのように、いちいち頷きながら答える。 ということは、もしかして……。 いやでも、ライターの火を見ただけであの絶叫……? ……そこまで酷いとなると、職場に普通に存在する事自体、難しいんじゃない? あ、そういや今日は平日じゃん。あの人仕事はどうしたんだ? ……。 湧き出る疑問の答えも出さずに、伸一は思考回路を断絶した。 あ。 暑い。 もう帰ろう。 ここで俺が頭抱えても仕方ないや。 帰宅してスペシャル援軍に助力を頼もう。 まだ突っ立っているサラリーマンに、「じゃ」と頭を下げて踵を返す。 何が何だか分からず放置された男の視線を背中に感じながら、伸一はフラフラ元来た道を戻って行った。
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