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……確かに。
あのまま行かせたのはまずかったかも知れない。
思った以上の無鉄砲さと天然さは、意外な要素だったが。
まあしかし、何かあれば必ず連絡が来るだろう。
蛇口から流れ出る水の筋を眺めながら、悠一はぼんやり考える。
「兄貴、俺思ったんだけどさあ」
「俺の宇宙人説は聞き飽きた」
リビングからの声に、我に返って即答した。
「いやそうじゃなくて……。もし得体の知れない何者かが昇さんに憑いてたとするじゃん? だったらその憑いてる奴自身が、炎が苦手ってことなの?」
属性は『水』、みたいな。
「まあ普通に考えたらそうだな」
「だよねぇ」
三笠によると、昇さんが炎恐怖症になったのは最近だと言う。
だから単純に考えて、何かに憑かれたのも最近だ。
それに、普段その『何か』は表に出ず、妹の三笠は人格の異変には気付いていなかった。
普段の会話や日常では。
「ならばあの日はなぜ出て来たんだ?」
悠一は呟く。
「何が?」
「……」
ああ、そうか。
俺達みたいな訳の分からん兄弟が、訳の分からん事をしようとしたからだ。
そして三笠に対する電話の対応は、単に『何か』の勘違いの怒り、とか。
「だから何がってばあ~っ!」
「……」
未だテーブルに突っ伏したまま叫ぶ伸一を、完全に無視して思案に耽る。
宿題。予習復習。家事。その他諸々。
これからの時間、やることは山積みだ。
分かってる。
分かってるのに。
悠一の右手は蛇口に添えられたまま、しばらく固まっていた。
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