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長期休暇を目前に控え、学生達の胸が踊る7月半ば。
開け放たれた窓から侵入を試みる陽射しの気配を、じわじわと左腕に感じながら、悠一は眉間に皺を寄せていた。
「今朝登校一番に耳にした『黒川悠一伝説』で悟ったんだけどさ」
「……ああ?」
「兄貴ってやっぱり人間じゃなかったんだね。とっとと木星に帰れば?」
「やかましい。お前が星へ帰還しろ」
悠一の不条理な平手打ちを喰いかけた少年は、慌てて頭を庇った。
月始めの私立名山高校では、『全校集会』と銘打った『風紀検査』が行われる。
運動場に整列した全生徒が、前から順に服装頭髪をチェックされる流れは、どこの高校も定番だ。
グラウンドに容赦なく照りつける真夏の太陽の下、無風の生き地獄を味わう生徒達。
それでも懲りない少数派は、様々な自己主張を振りかざし、教師達を戦闘モード化させて攻防戦を繰り広げる。
そんな中当然のようにパスした悠一は、教室に戻って自席に直行した。
未だ運動場でちらつく黒い小さな人影を、細めた目でボンヤリ見下ろし。
……この様子じゃ1限目開始はズレ込むだろうな。
そう確信して世界史の教科書に目を落とした悠一の前に、突然乱雑な音色と共に誰かが座った。
それが、弟の伸一だったのだ。
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