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教室の後ろの戸口から中の様子を窺った。
目だけを動かし、それらしい姿を発見する。
2人の女子生徒と一緒に、教壇で談笑していた。
一旦廊下から前の戸口へ移動する。
控え目に顔を覗かせ、そして控え目に声を掛けた。
「三笠。ちょっと」
たったその一言に、一斉に視線が集まった。
悠一はそれを完全に無視する。
悠一に群がる視線は、やがて悠一の目から伸びる線を辿り。
その先の里子で間を置いたのち、再び戸口の悠一へ戻る。
その見事なまでの反応は、もはや芸術と言っても過言ではなかった。
……これは、危険な気配だ。
悠一の脳裏に多少の後悔が掠めるが、今回ばかりは仕方がない。
諦めて里子を見据えた。
里子は悠一を認めるや、パッと悦びハッと眉間にシワを寄せ、ハテと小首を傾げた。
すぐに友人に何か告げて、慌てて悠一の元に走って来た。
「芸術的な百面相だな」
「え?! わ、私?!」
「……なんでもない」
言いつつ悠一は、目を険しく細めた。
「その左手」
「あ。……ま、まあ、ちょっとね……」
とっさに左手を背中に隠す里子を見て、悠一はあからさまに溜め息をつく。
「とにかく、今日の放課後は空いてるのか?」
「何が?」
「面倒臭い奴だな。お前の時間と生徒会室だ」
「うん、両方空いてる空いてる。行ってもいいの?」
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