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伸一と里子が同時に頷く様子を横目に、悠一は椅子から立ち上がり、徐に窓際に歩いて行った。
すぐ外で小高い丘の斜面が、太陽の光を反射して輝いている。
この暑さでは虫眼鏡がなくても、丘の草花が発火するんじゃないだろうか。
そんなことを考えながら2人を振り返った。
「だから、昇さんに払われた左手に火傷を負ったんだ」
悠一に顎で示された自分の左手を見下ろして、里子はゴクリと唾を飲み込んだ。
「私、無理矢理兄の脇を通って入ろうとしたんだけど、引っ張って追い出されたのよね。その時握られた左手がだんだん痛くなって。気付いたら爛れてた。……これ、火傷なんだ」
「おそらく」
悠一は窓際にもたれたまま、一点を見詰めて頷いた。
「でもさあ、それなら別に、魔神は昇さんの行動を妨げる必要ないじゃん。昇さんが克服すりゃあ、魔神だってこしたことないじゃん」
「だから、昇さんにとって炎を克服する事が、実は魔神退治に直結してるかも知れない。要するに、『克服』イコール『退治』」
「ああ、なるほど。危機感からの出現かぁ」
「お前が昨日見かけた昇さんは、おそらく昇さん自身だ。ライターの火に絶叫して逃げたとなると、昇さんに対する奴の圧力が、徐々に強くなってきてるのかもな」
「このままだと、乗っ取られるってこと!?」
「可能性もなくはない」
「乗っ取られたらどうなるの!?」
「……大魔神化?」
呟きながら伸一が小首を傾げる。
その隣で里子は、途方に暮れたように下唇を噛んだ。
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