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「きええぇぇ~~っっ!!」
家計簿とにらめっこしていた伸一の奇声がリビングにこだました。
書斎に籠もっていた悠一が、顔だけ出して眉をしかめる。
「やかましい」
「だって兄貴ぃ! これ見てよ~っ!!」
「どうせ今月の残高が底突いたんだろ」
始まったばかりだというのに。
「……なんでだろ」
「入金5万に繰越マイナス。これでひと月もつ方がおかしいだろが」
書斎から1冊の本を片手にリビングへ戻った悠一は、ソファにふんぞり返って足を組んだ。
しっかり冷房の効いたリビングは、過ごし易い真夏の夜を演出している。
「……で。結局どうすんの? 昇さんの件。三笠先輩は親に相談して決めるって言ってたけどさ。除霊するのかなあ」
腫れ物を触るように家計簿を閉じて、悠一の向かいに胡座をかく。
悠一は目を閉じて腕を組んだ。
「俺達は、人の過去に入り込むことが出来る」
「左様でございますが?」
「しかし実際は、相手の潜在意識の中に俺達の精神を注ぎ込ませてるらしい」
「うそっ! そうなの?」
「そう書いてある」
「えっ? 何に?」
「これに」
無表情で右手の書物を掲げ、悠一はガラステーブルに投げ置いた。
「家に帰るなり書斎に籠もって何してんのかと思えば……。俺達の能力について調べてたわけ?」
「何か手掛かりになる物があればと思ってな。でも残念ながら、あの書斎にあるのは親父の趣味本ばかりだ」
「親父の趣味って?」
「世界名作全集第1巻から120巻。詳細は『アンナカレーニナ』から始まり『怒りの葡萄』。『悲しみよこんにちは』を経由して『神曲』へ。『罪と罰』に続いて他省略。『モンテクリスト伯』で佳境に入りフィナーレへ突入。そしてお次は日本昔話全集第……」
「いえいえいえいえもう結構です」
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