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「まあとにかく、書斎には能力に関する本はなかったんだが」
「じゃあそれは?」
「親父の日記」
「嘘だろあの親父が日記?! ……想像つかない」
ポエムとか言わないでよ? 挿し絵とか入れてない?
ガラステーブルに横たわったA5サイズほどの冊子を二度見し、勝手に何か想像して頭を振っている。
そんな弟に冷ややかな視線を投げ、悠一は腰に両手を当てた。
「まあ中身は、自分が受けた依頼の内容と成果が主なんだが、1つ気になるパターンがあってな」
「へえ。どんな?」
「『記憶喪失者の記憶喪失原因解消に成功』」
「 記憶がない人の過去に入ったって事?」
「喪失してるからな。親父の文によると、最も鮮明な記憶イメージをヒットさせる所は同じなんだが……」
「でも、記憶喪失者が何をイメージしたんだろ」
「それだ。どうやら親父は、彼女の潜在意識からヒットしたらしい」
「依頼人は女の人かあ。好みだったに違いないね……」
「その点は『黒いショートの髪が、爽やかな彼女のイメージにぴったりだ』とあるぞ。下手な小説みたいだな」
「ぶっ」
飲んでいたポカリのボトルに思わず息を吐く。
「何にせよ、親父にはそれが出来たわけだ」
「じゃあ俺達にも出来るんじゃないの?」
「まあな。試す価値はある。……が、問題が1つ」
「そうそう、相手が悪いよね。あの宇宙人じゃ、潜在意識ヒットさせる前に火だるま間違いなしっ」
大袈裟に両腕で自分を抱きかかえて、ブルブル悶えている。
「ま、それは三笠と相談だな」
「兄貴やる気満々だね~。さては三笠先輩のためを思っての下心炸裂とかいう……」
「期待に添えなくて残念だが、俺は今非常に危機感を抱いててな」
悠一はそう言って立ち上がると、一枚の紙切れをテーブルに投げた。
ヒラリ。
ヒラリ。
左右に揺れ、やがて父親の日記に寄り添うように着地した。
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