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北校舎に4時45分のチャイムが鳴り響いた。
運動場の賑わいからかけ離れたこの校舎では、チャイムの響きがこだまして聞こえる。
この校舎に限っては、チャイムの存在意義さえ危うい。
そんな風に感じながら余韻を耳に残し、伸一はパイプ椅子を肩に担いだ。
「あ。ところで質問。この生徒会室って、普段は全く活用されてないの? 」
「毎週金曜日の放課後に活用してるわよ。つまり明日ね」
「じゃあギリギリだったんだ。思えばあれから4日連続の無断使用! 鍵の開け閉め、本当にありがとうございましたっ!」
伸一は深々と頭を下げた。
「……大袈裟よ弟くん。キミ、もの凄く正直で真面目で優しいわね。なんて言えばいいのか、こう、兄弟でも全然違った……」
「今その口から聞き捨てならない事が漏れ出ようとしている気がしないでもないが?」
「……」
ぐっと唸って口をつぐむ里子の旋毛を細めた目で見下ろし、悠一は鼻を鳴らした。
「戸締まりといやあ、不本意極まり無い1日を体験させてもらった」
「……ごめんなさい」
うなだれる里子を偉そうに睨み付け、悠一は華麗に立ち上がった。
「とにかくだ。依頼決行は週末日曜日午後1時。お前も駅に集合」
「う、うん、分かった!」
「何があるか分かんないから、加奈子さんについててもらうよ?」
「うん! 私に出来る事ならなんでもする!」
「よし」
里子の返事に軽く頷いた悠一は、右手を額の横に掲げ、
「では俺は退散する。さらばだ」
そう言い残して、振り返ることなく颯爽と生徒会後にした。
「よっぽど戸締まりしたくないんだな兄貴」
「どうやらあの日は、窓も全部閉めてくれて、鍵も職員室に届けて帰ってくれたのよね」
「だろうと思った。詳しく言及しなかったけど、三笠先輩が飛び出して行った下りのところは、『そして残された俺』って締めがあったから」
「職員室で質問攻めにあったらしいし。なんせ、『名山トップに君臨する優等生』が『生徒会室の鍵』だもんね」
「あの人根は真面目だから。土から出てる部分がかなりひねくれてるけど」
「ぷっ」
吹き出す里子を見下ろし、伸一は真顔で質問する。
「三笠先輩、兄貴知るにつれて自分の選択間違ったとか思わない?」
「それがさ、益々好きになって、制御利かない感じなのよ」
「……」
もはや悠一の余韻すら消えた生徒会室に立ち尽くし、顔を見合わせて言葉を失う2人だった。
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