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人生いつ、何がきっかけで、どう急変するか分からない。
駅の掲示板に貼られた広告を見詰めながら、三笠里子はつくづくそう感じていた。
今までこんなに人を好きになった事はない。
そう思う相手に告白したのが、つい1週間と2日前。
同日、間髪入れずに見事玉砕。
それなのに今日、こうして彼を待っている自分がいる。
……弟くんもいるけどね。
里子は広告から目を逸らし、のんびり正面を向いた。
今日も朝から必要以上に張り切る太陽。
遠くアスファルトの地面が揺れている。
そんな視界に、やたら目立つ2人組が映った。
真っ赤なTシャツに迷彩柄のカーゴパンツ。
白いプリントTシャツに濃紺のGパン。
足して350センチ超えを果たすであろう長身細身を並べて、黒川悠一と黒川伸一は、何やら熱心に会話しながら、真っ直ぐこちらに向かって来た。
周囲の目線が兄弟に集中する。
通行人が振り返る。
そんな反応など意にも介さず、兄弟は会話に夢中になっている。
里子は溜め息と共に苦笑いした。
この先私と黒川くんがどうにかなる確率なんて、半分もないもんね。
とにかく。
この件が終われば、黒川くんの性格からして、私は無視だろうし。
いっそのこと黒川伸一になりたい!
そんな勝手な願いを天に向かって叫ぶ里子である。
「おい、来たぞ。さっさと連れて行け」
気が付くと目の前に2人が立っていた。
相変わらず無愛想でそっけなく、究極に横柄な物言いの悠一。
隣でそんな兄に侮蔑の眼差しを向ける弟。
なんて極端な兄弟なのかしら。
などとは言わず、里子は緩んだ頬を引き締めた。
「お願いします」
そう真顔で頭を下げると、今日の目的に気合いを入れ直す。
今から会いに行くのは、誰あろう自分の兄で。
しかし、兄ではない何者かで。
里子はキッと前方を見据え、陽射しのシャワーへとその身を投げ出した。
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