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「なんだ?」
「なあにぃ~?」
見事なステレオ放送を披露した後、悠一は立ち上がって弟を睨む。
「ここでの黒川は俺だ」
「いや俺も黒川だもん」
兄弟喧嘩に勤しむ2人に向かって、廊下の男子生徒は更に続けた。
「三笠が呼んでるぞー!」
え?
兄弟は直ちに停戦を交わす。
顔を見合わせて、好きな方向に首を傾げた。
それは正に話題の人物の名前。
悠一は徐に廊下を仰ぎ見る。
確かに金曜日自分を生徒会室に呼び込んだ、古風な顔立ちの女子生徒が立っていた。
遠慮がちに佇み、教室中の視線が黒川兄弟から自分に移り変わった事に多少怯えている。
その脇で、ニヤニヤしながらクラスメートが悠一を伺っていた。
「なんで今更俺なんだ?」
「そんなの知らないよ。待ってんだから早く行けば?」
「俺に用は無いぞ?」
「兄貴になくても彼女にはあるの!」
「告白の次は呪いか? 髪の毛採取か? 1本たりとも譲らんぞもったいない」
「減るもんじゃないだろ」
なかなか出て来ない悠一に業を煮やしたのか、三笠は脇の男子生徒に何やら耳打ちした。
怪訝な表情で軽く頷いた男子生徒は、こっちに向かって再び声を張った。
「T&Hの件で話があるんだとー!!」
その一言で、2人は同時に固まった。
やがて黙って顔を見合わせ、瞬時に何かを通わた兄弟は、同時に足を動かす。
どうやら伸一の返事は間違っていなかったらしい。
彼女は『黒川兄弟』に用があったのだ。
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