2260人が本棚に入れています
本棚に追加
放課後の北校舎は静寂の支配下におかれる。
小高い丘に隣接し、会議室や図書室を中心に放課後の利用率が低い施設が集るこの校舎は、名山高校7不思議の4つに絡む不名誉な実績を持っている。
そんな中、パイプ椅子を寄せ集め、3人は北校舎2階の生徒会室に座っていた。
『依頼主は私じゃなくて、兄なの』
三笠は廊下でそう告げた。
悠一の姿に一瞬の動揺と怯みをみせたものの、一緒に現れた弟のフォローを受け、神妙に座っている。
「実は兄、極度の炎恐怖症なの」
「具体的には?」
「うん。例えば、以前は煙草を吸ってたんだけど、ライターやマッチの火を怖がるようになって、禁煙。家の仏壇も、線香の火がダメで近寄れない。以前はここまで酷くなかったんだけど、今じゃ火が絡む事には絶対手を出さなくなった」
「恐怖症の兆候はいつから?」
「本人は小さい頃からだって言うけど……」
「けど?」
「私は違うと思う。兄とは5つ離れてるから、よく面倒見て貰った記憶があるけど。火に怯えてたのはむしろ私の方だったし。花火に点火して貰った記憶もある。煙草も普通に吸ってた」
「ふうむ……」
伸一は顎に右手を添えて黙り込む。
そんな2人の会話を、パイプ椅子にふんぞり返って腕組みし、悠一はただ黙って聞いていた。
「じゃあ話戻すけど、お兄さんはなんで依頼してきたの?」
三笠は頷いた。
「兄の奥さん、 加奈子さんが身体を壊してて……」
沈んだ顔で溜め息をつく。
俯き加減のその顔は、よくよく見れば十分に美人の部類だ。
壇上に立つ遠目からの彼女しか知らない伸一は、その嬉しい発見に思わず見入ってしまう。
目を引く派手さや華やかさは無いが、それは彼女の聰明な雰囲気によるもの。
大和撫子。
そんな表現がしっくりくる、たおやかな日本美人だろう。
最初のコメントを投稿しよう!