第1話 1.黒川兄弟

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  「加奈子さんのためにお粥すら作ってあげられないから」 「ならいっそのことオール電化にしたら?」 「それはとっくに勧めた。でも、今後の加奈子さんの具合によっては、自分で色々やらなきゃいけないわけで。それに将来子供が産まれたりして、父親が炎恐怖症じゃ情けないでしょ」 「なるほどねぇ」 伸一が眉をしかめて頷いたところで、腕組みを解いた悠一が立ち上がった。 「とにかく本人に会わないことには始まらない。今日の6時は空いてるのか?」 「え、ああ、たぶん大丈夫だと思う……ます」 突然悠一に話を振られた三笠は、動揺を示すような不可解な返事を発する。 悠一は意にも介さず、徐に胸ポケットから紙切れを取り出した。 「うちの住所と電話番号と簡易地図。個人的使用を確認すれば直ちに成敗する」 言うが早いか、さっさとパイプ椅子を畳んで元の位置に戻し、生徒会室を後にした。 「せ、成敗……?」 「いや三笠先輩気にしないで。兄貴時々セリフに古典が入るんだ」 「あらそう……」 唖然とした呟きを最後に、三笠は戸口を見詰めて黙り込んだ。 その沈黙に三笠を残したまま、兄を追って一旦教室を出た伸一は、背後を振り返って足を次第に緩める。 紙切れを手に呆然と立ち尽くす三笠の背中に、緩んだ足の回転が完全に止まった。 そして再び、ゆっくり舞い戻った。 「……兄貴に告白した事、後悔してない?」 その声に驚いて顔を上げた三笠は、しばらく黙って伸一を見つめた。 慎ましやかな瞳に直視されると、緊張して背筋が伸びる。 ややあって三笠が顔を上げた。 それからゆっくり首を左右に振り、にっこり笑って言い放った。 「後悔はしてない、全然」  
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