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三笠の反応に伸一は肩をすくめた。
「冷酷極まりないのに?」
「あれが黒川くんよ。でも私、今朝痛感した。もしあの時、奇跡的に黒川くんと上手くいってたら、私は今頃この世にいなかったんじゃ、とか」
にっこり笑って物騒な事を言う。
「否定出来ないところが怖いです」
「黒川くんに彼女が出来たら、その子はタダじゃ済まない」
正に天国から地獄よ。
「兄貴の親衛隊は俺のと違って過激なのが多いからなあ」
「それを見越してたと思うことにした。週明けには黒川くんが言い放った台詞一言一句が、みんなに知れ渡ってたから。親衛隊のアンテナでもある?」
そう言ってキョロキョロ辺りを見回す様子は、普段壇上で挨拶する三笠と違い、コミカルで愛嬌がある。
聡明な瞳がおどけて緩むと、いっそう馴染みやすさを感じた。
「兄貴は先輩に何て言ったの?」
「悪いが女子に興味ない。迷惑だから諦めろ」
多少の声真似を交えて胸を反らせる様子に、伸一は思わず吹き出した。
「ぶっ! 全然似てない! ってか兄貴ってやっぱヒドイ奴だ!」
「そう? やっぱり私には、多少なりとも黒川くんの心理が働いてた気がする。自分を取り巻く環境ってものが、優しく『断る』ことさえ許さないんだって」
そう言う三笠の目に、一瞬だけ悲哀が滲んだ。
例えどう憶測しても、『断られた』事実に変わりはない。
自分自身の言葉で再認識したかのように、諦めの色が霞んだ。
「いや、三笠先輩には悪いけど、兄貴はそんな奴じゃない。単に自分と金儲け以外に無関心なだけなんだ。多分、小野小町が告白しても、同じ返事するよ」
「……小野小町……」
「兄貴はほら、禁断の果実を食べる前のアダム?」
「うん、ありがとう。 私の勘違いでも、目的は達成したからそれでいいの。言わなきゃ知ってもらえないでしょ、アレが相手じゃ」
「アレって先輩……」
「とにかく、後悔してない」
「罪な男だ。憎たらしい」
ブツブツ呟く伸一を、下からすくい上げるように見ながら、三笠は腰に手を当てた。
「優しい弟くんね」
「へ?」
「そうやって黒川くんを下して、私をフォローしてくれるの? しかも、ちゃっかり黒川くんのフォローも忘れない」
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