ある晴れた日の昼下がり

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「あ、れっ……?」  何かを忘れているような気がする。  しかし、彼に考える時間は与えられることはなく、答えは表れた。  青色に輝く紋章として。  その青の輝きによって瞬時に森の空気が凍てついた。  両者の間に現れたのは交差する二つの輪に囲まれた雪の結晶を模した紋様の、三次元的な魔法陣。  冷たく光る楔型の文字列が紋様を形作っている。  その精緻にして巧妙な魔法陣は急激に膨張し、両者を包み込んだ。  濃密な木々の緑すらも侵食し、すべてが青に支配された世界。そこに凛とした声が響きわたる。 【氷霧の立ち込める凍土に眠る白魔よ、瀑布さえ止める絶対零度の冷気をもってあらゆる流れを永遠(とわ)に凍結せよ!!】  瞬間、凄まじい勢いで青の吹雪が吹き荒れた。  薄れる視界の中で、御剣は見る。バジリスクの胴が、牙が、そこから染み出す毒液までもが、青い霜に覆われてゆく。  体内までも蹂躙する零下の吹雪。  全身は瞬く間に凍り付き、ピクリとも動かない氷像となる。  止められた命の鼓動。  しかし、同じく猛吹雪の中にいる御剣は凍らない。それどころか不思議なことに髪の毛一本さえそよがなかった。  別に御剣が何かしたわけではない。御剣はこの魔法を知っていた。  魔法、科学で成り立つ第7都市の中でも最高クラスの氷雪系魔法『止流氷雪(ディレイスノウ)』御剣の同輩が扱う魔法だ。  吹雪が止み、世界に再び緑が溢れると、すべての流れを止められたバジリスクの体は自重に耐えきれず崩壊した。
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