なぎさの太陽

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二時過ぎ。九州にある、とある町の原松小学校では午後の授業が始まっている。 大きな校舎の中でもっとも陽の当たる三年二組では、現在図工の授業の真っ最中である。みんな机に背中を丸めて、画用紙にクレヨンで必死に描いている。黒板には『わたし・ぼくのゆめ』という文字。 「有田さん。いつまで描いてんだよ」 「わ!ちょっと見ないで!」 髪が肩まであり、少しぽっちゃりした少女(有田なぎさ)が慌てて自分の画用紙を机の中に隠す。隣にいた色黒の男の子(岡谷翔太)がむすっとした顔をする。 「だったら早く描き終われよ。俺らだけだぜ、まだ見せ合いっこしていないの」 「え?」 なぎさが慌てて周りを見る。クラスのほとんどが翔太が言ったとおり、隣同士で見せ合いっこしていた。 「ご、ごめん岡谷君。あと少しで終わるから…」 「早くしろよ」 そう言うと翔太はなぎさと逆を向く。なぎさはそれを見てなんとなく嬉しくなり、すぐにクレヨンを手にして画用紙に黄色い丸を描き続けた。早く終わらせなくちゃ、終わらせなくちゃ、と考えながら。 「あら、翔太君となぎさちゃんはまだ見せ合いっこしていないのかな?」 「うん。有田さんがまだ終わって、」 「終わりましたあっ!」 画用紙を持った手を伸ばし、なぎさが勢いで立ち上がり、イスが倒れる。一瞬クラスが沈黙になり、どこからともなく始まった笑い声が辺りに響く。 「なぎさちゃん。そんな焦らなくてよかったのよ」 先生の言葉になぎさが真っ赤になり、クラスの笑い声の中、静かにイスに座る。
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