20人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
二時過ぎ。九州にある、とある町の原松小学校では午後の授業が始まっている。
大きな校舎の中でもっとも陽の当たる三年二組では、現在図工の授業の真っ最中である。みんな机に背中を丸めて、画用紙にクレヨンで必死に描いている。黒板には『わたし・ぼくのゆめ』という文字。
「有田さん。いつまで描いてんだよ」
「わ!ちょっと見ないで!」
髪が肩まであり、少しぽっちゃりした少女(有田なぎさ)が慌てて自分の画用紙を机の中に隠す。隣にいた色黒の男の子(岡谷翔太)がむすっとした顔をする。
「だったら早く描き終われよ。俺らだけだぜ、まだ見せ合いっこしていないの」
「え?」
なぎさが慌てて周りを見る。クラスのほとんどが翔太が言ったとおり、隣同士で見せ合いっこしていた。
「ご、ごめん岡谷君。あと少しで終わるから…」
「早くしろよ」
そう言うと翔太はなぎさと逆を向く。なぎさはそれを見てなんとなく嬉しくなり、すぐにクレヨンを手にして画用紙に黄色い丸を描き続けた。早く終わらせなくちゃ、終わらせなくちゃ、と考えながら。
「あら、翔太君となぎさちゃんはまだ見せ合いっこしていないのかな?」
「うん。有田さんがまだ終わって、」
「終わりましたあっ!」
画用紙を持った手を伸ばし、なぎさが勢いで立ち上がり、イスが倒れる。一瞬クラスが沈黙になり、どこからともなく始まった笑い声が辺りに響く。
「なぎさちゃん。そんな焦らなくてよかったのよ」
先生の言葉になぎさが真っ赤になり、クラスの笑い声の中、静かにイスに座る。
最初のコメントを投稿しよう!