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「こっちだよ、こっち!」
「岡谷君早いよ、待ってえ!」
翔太が、土手から手を振っている。なぎさはまだ土手の上がり口である。なぎさにとって、この土手はありえないくらいに辛い難関。上りついた時は、息切れ、汗、咳、めまい、吐き気が起こるような急斜面なのである。
「お前、ほんと体力ねえな」
「岡谷君みたいに生まれついた筋肉馬鹿とは違いますからね。でも見てなさーい。いずれ岡谷君を抜いてやるんだから!」
「百m走ならいつでも受けて立つぜ」
「それは無理。だって岡谷君、十五秒じゃん。私、二十秒台だし」
「あきらめんなよ。努力もしねえで無理だって言うのは逃げてるだけだぜ」
「言ってくれるじゃん。分かった、絶対岡谷君に勝つくらい早くなってやるもん。走るのが無理なら、岡谷君の好きな卓球で勝ってやる!」
「へえ!そりゃ楽しみだ…ほら、ここだ」
翔太が指を指す。その先には、見事な緑が広がる河川敷が見えた。その緑の中にぽつぽつとタンポポの黄色が見える。
「へえー。この町にこんなところあったんだ!でもタンポポ、少ししか咲いてないよ」
「だから、俺らで増やせばいいじゃん」
「増やすってどうやって?」
翔太が、しゃがんで足元にあったタンポポの綿毛の茎をちぎって手にする。
「それ、フーってして、綿毛を飛ばす奴じゃん。これをどうするの?」
「馬鹿。これはタンポポの種なんだよ」
「そうなの!?じゃあ、これをいっぱいこの辺りにばらまいたら…」
「そ。いっぱい咲くってわけだ」
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