第一話 防空壕

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声色からして私の父ぐらいの年齢だろうか。 「いえ…私は兵隊などではありません…」 まるで、父の前で喋っているかのような錯覚がした。 「なにを言っているのですか。 国を守っていただきありがとうございます」 そんな感謝の言葉が胸に突き刺さる。 私は守ることはおろか、助けようともしなかった。 「私はあの村から逃げてきたんです…。 誰も助けることが出来なかった。いや、助けようとしなかった。国民より、自分の身を優先したんです……」 彼はそうですかと呟き 「恥じることではありません。 誰だって死ぬのは怖い。あなたは、人間としてもっともな行動を行っただけですよ」 そう言ってくれた。 「いえ…私は国を守る兵士として失格です…申し訳ありません」 この防空壕にいる人達はきっと村から逃げ延びた村人達だろう。 こんな言葉で許されるなんて思ってはいない。 だが、謝られずにはいられなかった。 あの時、私には救えた命もあったはずだ。 それを見捨て私はおいそれと逃げ延びてきた。 ここから出て行けと言われたら素直に聞くつもりだった。 「なにを言うのです。 村はあなた達が来てくれたおかげで立ち直りました。治った怪我人だってたくさんいます。 本当に感謝しています」
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