1357人が本棚に入れています
本棚に追加
私がこの仕事に着いたのは三ヵ月ほどまえだ。
初めてということもあって苦労した。
私がいつもニコニコ顔のせいか、囚人達にはニコニコ看守なんてあだ名をつけられた。
あの時は苦労したなぁ、なんて思いつつ棟から棟に繋がっている渡り廊下を歩く。
いつもならこのまま思い出にふけりながら巡回するが、今日は訳が違う。
なぜなら明日死刑になる死刑囚がいるのだから…。
「気が重いなぁ…」
なんてグチをこぼしつつ棟に入る。
棟は四階建てで、私が巡回するのは三階だけだ。
一直線の廊下の両側に牢がある。
廊下は薄暗く、奥へ進むほど闇が濃くなる。
懐中電灯で先を照らしながら進む。
カツン、カツンと私の靴音が廊下に響く。
明日死刑になる囚人は、一番奥の牢に幽閉されている。
「そろそろだな…」
あまり牢を見ないようにする。
騒がしい気配も無く、いたって無音。
異常は見られない。
「…ふう」
安堵の息を漏らしつつ、回れ右をして戻ろうとした。
「───月がキレイだ」
通り過ぎる間際、牢から感嘆とした声がした。
声には落ち着きがあり、とても明日死ぬ人とは思えなかった。
私は返事を返そうと思ったが、掛ける言葉が見つからず、
「そうだな…」私はただそう呟いて、今日の巡回を終えた───
最初のコメントを投稿しよう!