第二話 月

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私がこの仕事に着いたのは三ヵ月ほどまえだ。 初めてということもあって苦労した。 私がいつもニコニコ顔のせいか、囚人達にはニコニコ看守なんてあだ名をつけられた。 あの時は苦労したなぁ、なんて思いつつ棟から棟に繋がっている渡り廊下を歩く。 いつもならこのまま思い出にふけりながら巡回するが、今日は訳が違う。 なぜなら明日死刑になる死刑囚がいるのだから…。 「気が重いなぁ…」 なんてグチをこぼしつつ棟に入る。 棟は四階建てで、私が巡回するのは三階だけだ。 一直線の廊下の両側に牢がある。 廊下は薄暗く、奥へ進むほど闇が濃くなる。 懐中電灯で先を照らしながら進む。 カツン、カツンと私の靴音が廊下に響く。 明日死刑になる囚人は、一番奥の牢に幽閉されている。 「そろそろだな…」 あまり牢を見ないようにする。 騒がしい気配も無く、いたって無音。 異常は見られない。 「…ふう」 安堵の息を漏らしつつ、回れ右をして戻ろうとした。 「───月がキレイだ」 通り過ぎる間際、牢から感嘆とした声がした。 声には落ち着きがあり、とても明日死ぬ人とは思えなかった。 私は返事を返そうと思ったが、掛ける言葉が見つからず、 「そうだな…」私はただそう呟いて、今日の巡回を終えた───
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