第二話 月

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棟の中はいつものように薄暗く静かだ。 例の牢の前に立つ。 少し前までここには死体があった。 そう思うだけで酷い吐き気に襲われる。 頭をブンブンと振り、覚悟を決めて牢に入る。 空気はひどく冷たい。季節が冬ということもあってか、まるで冷凍庫の中にいるようだ。 牢の中は真四角。 左奥にトイレ、右端にベッドとシンプルな配置がされている。 ベッドに寝転ぶ。 あまりの寒さに毛布を持って来ればよかったと後悔する。 寒さのあまり、丸まっているといつの間にか私は眠りについていた。 『………ない』 何か声がする。 『わた……………てない』 声はだんだん大きくなってくる。 『わたしは……………てない』 不意に声が止まる。 なんだ、夢か…。 再び眠りに身を任せようとした。 すると耳元で 『わたしはやってない!!!!』 驚き目を開ける。 体を起こし周りを見渡す。 ───誰もいない。 安堵の息を漏らし再びベッドに仰向けに寝転ぶ。 小さな窓から外を見る。 まるでゴンドラのような形の月が輝いていた。 下弦の月だ。 「───キレイな月だな」 ふと口走っていた。
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