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駅まで逃げるように走る。
通り過ぎていく人々が訝(いぶか)しげな顔で見てくるが関係ない。
赤信号も関係ない。
ノンストップで駅に着くと私は息を整えることも忘れて電車に逃げるように飛び乗った。
駅から家までは、背後をついて歩く気配はなくなっていた。
間違いない。
───彼だ。
家に帰り、逃げ込むように自分の部屋に入りベッドに蹲(うずくま)る。
恐怖のためか、冷蔵庫の中に入れられたかのように全身が震えていた。
怖い。
彼がそばにいるような気がする。
今にも喋り掛けてくるような、そんな錯覚に囚われる。
(だ、大丈夫よ!いつも彼は駅からこっちには付いて来なかった!)
───!
じゃあ…朝、私の手を掴んだのは誰?
トントン
「……っ!」
ドアをノックする音に体が強張(こわば)る。
──誰?
まさか───彼が…。
「お母さんよ。開けて」
───なんだ。お母さんか。
緊張感が一気に溶ける。
ガチャリとドアを開ける。
「コレ、あなた学校に忘れてたでしょ。わざわざ先生が持って来て下さったのよ」
そこには、私の筆箱を持った母が立っていた。
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