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「あれ?忘れてたかな…」
鞄の中を見ると、なるほど確かに無い。
「先生もう帰っちゃったから、明日ちゃんとお礼言うのよ」
そう言って母は下に降りていった。
わざわざ筆箱一つのために持って来てくれるなんて、誰だろ?
「どんな先生ー?」
下にいる母に問い掛ける。
「若い先生だったわよ。礼儀正しい良い先生ね」
若い?
私のクラスの担任はどう見ても中年のおっさんだ。
私が知る限りでもそんな若い先生は知らないし見たことも無い。
もしかしてまだ近くにいるかもと思った私は窓から外を見てみた。
すると坂を降る後ろ姿でスーツの男性が見えた。
帰った時間から考えてきっとあの人だ。
「先生~!わざわざありがとう~!」
そう呼び掛けると気付いたのか、男性がピタリと止まる。
そこから足は動かず180度、まるでオルゴール人形のようにクルリとこっちに振り返った。
「ッ!!!!」
顔が見えた途端、反射的に体は窓から見えないようしゃがみ込んでいた。
──間違いない。
──あの人だ。
事故で死んだはずの彼は、振り返り私を見てニヤリと口を歪ませていた。
来た。
遂に来た。
私を殺す気だろうか。
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