第三話 いっしょ

9/15
前へ
/50ページ
次へ
「あれ?忘れてたかな…」 鞄の中を見ると、なるほど確かに無い。 「先生もう帰っちゃったから、明日ちゃんとお礼言うのよ」 そう言って母は下に降りていった。 わざわざ筆箱一つのために持って来てくれるなんて、誰だろ? 「どんな先生ー?」 下にいる母に問い掛ける。 「若い先生だったわよ。礼儀正しい良い先生ね」 若い? 私のクラスの担任はどう見ても中年のおっさんだ。 私が知る限りでもそんな若い先生は知らないし見たことも無い。 もしかしてまだ近くにいるかもと思った私は窓から外を見てみた。 すると坂を降る後ろ姿でスーツの男性が見えた。 帰った時間から考えてきっとあの人だ。 「先生~!わざわざありがとう~!」 そう呼び掛けると気付いたのか、男性がピタリと止まる。 そこから足は動かず180度、まるでオルゴール人形のようにクルリとこっちに振り返った。 「ッ!!!!」 顔が見えた途端、反射的に体は窓から見えないようしゃがみ込んでいた。 ──間違いない。 ──あの人だ。 事故で死んだはずの彼は、振り返り私を見てニヤリと口を歪ませていた。 来た。 遂に来た。 私を殺す気だろうか。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1357人が本棚に入れています
本棚に追加