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ただ見てるだけじゃ他人止まり、喋り掛けなきゃ何も始まらないからね。
でも……」
そこで彼は言葉に詰まり、なにか暗い空気が漂う。
「その後…どうなったんですか?」
ここで話を切り上げることも出来た。
話の続きを促したことを私は後悔した。
「その娘ね、いきなり走り出したんだ。
俺も思わず走り出してた。今日を逃したらもう喋り掛ける勇気が出てこない気がして。」
彼は一息ついて、話の続きを一気に捲し立てる。
「その娘ね、信号赤なのに飛び出したんだ。その時、すぐ後ろを走ってる俺には何が起こるか見えたんだ。トラックが猛スピードで彼女にぶつかろうとしてた。迷いなんて全く無かった。俺は彼女の背中を押した。
そして、俺はトラックに轢かれた。体中から血が失われていくのが解ったよ。もう助からないっていうのも同時に解った。
けど、後悔なんてこれっぽっちも無かったね。
だって“キミ”が生きていてくれたんだから」
体が動かない。
目からは涙が溢れ出てくる。
「あ…あ…」
彼は優しく語り掛ける。
「何を恐がってるんだい?
もしかして、俺がキミを恨んでると思ってるなら間違いだよ」
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