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━━━なんて酷い光景だ…。
目にうつっているのはまさに地獄。
村は火の海に飲み込まれていた。
空では爆弾を投下した敵国の戦闘機が、まるで焼け落ちる村を見物しているかのように周りを旋回している。
村はあまり大きくはなく、焼けていない家などない。
道にはたくさんの焼死体が見える。
私は走る。
このとき私の心にあったのは国を守る愛国心でもなく、上空を飛ぶ戦闘機を憎む敵対心でもなかった。
ただ恐怖していた。
火の粉が降り懸かろうと、私は止まること無く一心不乱に走った。
いや、逃げたと言った方が正しいか。
新兵の私がこの村に援軍に来たのはつい三日前のことだ。
この村は二週間前にも一度空襲を受けている。私を含めて一個分隊が支援のためにこの村に来た。遅すぎる判断だと思ったが軍隊とはこういうものだ。
それに支援物資のおかげで助かった村人もいる。私達が来たことは無駄ではない。
そう思っていた。
いざ戦争が始まるとどうだろう。
仲間達は私の目の前で死んだ。
突然のことだった。
きっと最初の投下が、私達の宿舎に落ちた爆弾だろう。
運良く生き延びた私は仲間を助けることなく逃げた。
仲間だけではない。
私は村人さえも見捨てて逃げている。
こんな私を見て仲間達はどう思うだろう。
自分の情けなさに涙が出た。
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