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だが足が勝手に動く。
ガタガタと体は震える。
私の頭には自分の身の安全のことしかなかった。
───どれぐらい走ったのだろう。
気が付けが私は山の中にいた。振り替えると焼ける村が見下ろせる。
───私は…とんだ、臆病者だ…。
そう呟きその場で蹲(うずくま)る。
怪我をしているわけじゃない。ただ、心が痛かった。
「早くこっちに来なさい!」
突然のことに心臓が高鳴る。
声の方向を見ると山の斜面に洞穴があった。
それが防空壕だと気付くのにしばしば時間が掛かった。
「さぁ、早く」
声は穴の奥、暗い闇から聞こえている。
よろよろとした足取りで洞穴に入る。
ただ、ただ自身の身を守りたかった。
入ったとたんに酷い悪臭が鼻につく。たくさんの怪我人がいるのだろうか、呻(うめ)き声が聞こえる。
声の響き方からして穴はたいして大きく無い、学校の教室ぐらいだろう。
「さ、私の隣りへ」
さっきの声が私を呼ぶ。
暗く何も見えないが声を頼りに彼のもとへ行き隣りに腰を下ろす。
気がつけば私は咳(せき)ごむほど息を切らしていた。
無我夢中で走ってきたのだ。当然か。
「兵隊様でしたか」
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