第一話 防空壕

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だが足が勝手に動く。 ガタガタと体は震える。 私の頭には自分の身の安全のことしかなかった。 ───どれぐらい走ったのだろう。 気が付けが私は山の中にいた。振り替えると焼ける村が見下ろせる。 ───私は…とんだ、臆病者だ…。 そう呟きその場で蹲(うずくま)る。 怪我をしているわけじゃない。ただ、心が痛かった。 「早くこっちに来なさい!」 突然のことに心臓が高鳴る。 声の方向を見ると山の斜面に洞穴があった。 それが防空壕だと気付くのにしばしば時間が掛かった。 「さぁ、早く」 声は穴の奥、暗い闇から聞こえている。 よろよろとした足取りで洞穴に入る。 ただ、ただ自身の身を守りたかった。 入ったとたんに酷い悪臭が鼻につく。たくさんの怪我人がいるのだろうか、呻(うめ)き声が聞こえる。 声の響き方からして穴はたいして大きく無い、学校の教室ぐらいだろう。 「さ、私の隣りへ」 さっきの声が私を呼ぶ。 暗く何も見えないが声を頼りに彼のもとへ行き隣りに腰を下ろす。 気がつけば私は咳(せき)ごむほど息を切らしていた。 無我夢中で走ってきたのだ。当然か。 「兵隊様でしたか」
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