紅色のきもち

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「あのどうされましたかぁ……?」 壁からひょっこり顔を出してこちらを覗いている撲殺天使に、恐る恐る話しかけてみますと、そのちょっといつも眠そうな感じのビードロみたい綺麗な瞳を俺に向けながら、口をゆっくりと開きます。 「帰る所?」 「え……? あっ、はい。そうですよ」 そうすると壁から今度は、学校指定の革鞄を握った上杉柳の右手がひょこっと出てきました。 「私も帰る所」 何がなんだか……。もうね、でっていうっていうね。 「そうなんですか、お気をつけて!」 俺は必死に笑顔を浮かべていますが、彼女は何の反応も示しません。相変わらずの眠たげなビードロの瞳で俺をじっと見つめています。 何だこのシュールな光景は……。壁から顔と右手だけ出している女の子とひたすら向き合い……何も言えなくて。 どれくらい彼女と向き合っていたでしょうか。あんな感じの敵、FFⅧにいたなぁ……とか漠然と思っていますと、俺はやがて彼女の瞳が俺に何かを必死に訴えかけていることに気づきました。 恐らくですが、『私の心中を察しろ』と。 ……これはこの言葉が正解か? 「えぇ……家まで送っていきましょうか?」 すると、完全にフリーズしていた上杉柳が一瞬、ほんの一瞬だけ顔をパァッーと明るくさせた後、ついに壁からその全身を登場させ、俺の元へと近づいてきて、そして頭を軽くぺこりと下げました。 「よろしくお願いします」 「あっ、はい……されます」 なんだ、この子?
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