紅色のきもち

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夕暮れ時のラッシュも過ぎたのか、エリア11は比較的空いていました。 今日の夕飯の材料は冷蔵庫に充分にあったので俺は余計な買物をする必要もなく、トイレットペーパー片手にこの店を後にするだけです。 しかしながら、 俺は見つけてしまったのです。 お菓子コーナーにおいて片手に一枚のメモ帳を握り、買物カゴをぶら下げ、空いた片方の手を最上段に置いてあるポテチへと懸命に伸ばす上杉柳の姿を。 なんというデジャヴュ……そして俺は迂闊にも、前回の事に関してエリア11側に苦言を呈することを失念していた事実を思い出すのでありました。 そのせいで、彼女は今日もまた指の数cm先に存在するポテチに翻弄されている訳なのです……可哀相に。伸びきった足はまるで生まれたての仔牛のように震えています。 まぁ、でも今は前回に比べたら上杉柳との関係も良好ですから、今回は悩む必要はないっすね。 俺はすぐさまあくせくしている上杉柳の方へと向かい、彼女の指の先にあるポテチを掴みあげました。 「……ふにゃ?」 急にお目当ての品を取られた上杉柳は、少しまぬけな声をあげました。 「はい、どうぞ」 俺は上杉柳の頭の上にポンっとそれを乗せます。 「ここの棚高すぎっすよねぇー、女の子には取りづらいわってね? 」 適当に笑みを向けて話すと、彼女は無表情を守ったまま耳と頬を徐々に赤く染めはじめました。 「あ、あ……ありがてゅ」 あっ、噛みましたね、今。
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