807人が本棚に入れています
本棚に追加
振り返りもしないまま、中丸は弱い口調で呟いた。
「‥…心配、した」
離されないままの手首から伝わったのは、奮えてる指先でも、ヘタレだってことでもなくて。
「…いや、あー‥…ごめん、悪かった、よ。心配、かけて。」
中丸の、やさしさ。
「…もう、急にいなくなるのとか、なしな」
言って、俺の手首を掴むその指先にまた、中丸は力をこめた。
「じゃー、中丸俺のボディーガードね!」
重たい空気がちょっとでも明るくなるかな、なんて冗談めいたふうに言ってみたけど、中丸は静かにうん、って頷くだけだった。
「‥えーと、ほら。俺、なんか”そういう目”で昔からよく見られるからさ、さっきみたいに変なヤツとかもホントよく寄ってくんの。
なんか、それに対してとくになんとも思ってないし、だから中丸あんま気にしなくて…」
大丈夫だから、って言おうとしたのを遮って、中丸は振り返ると、決意したみたいに俺に告げた。
「上田は、上田だから。
俺はちゃんと、お前をお前として見てるから。」
あの言葉が、俺が中丸に抱く感情の、直接の原因になったかどうかはわからないけど。
あの日から少しづつ、俺のなかの何かが確実に変わっていった。
「たっちゃん!」
ひとりの帰り道、後ろから聞こえてきたのはわかりやすくご機嫌そうな友達の声。
振り返った視線の先、友達の隣に立つそいつの存在に、弾ませた声の理由ならすぐに理解した。
「かめ!‥と、赤西ー。久しぶりー!」
軽く手を上げて応えれば、嬉しそうに駆け寄ってくるかめ。
その後ろを見守るように歩く、赤西。
ふたりとは高校は別々になったものの、中学時代からの友達関係はいまなお続いてる。
学年は俺のひとつ下のかめと赤西だけど、体育祭で同じチームになったことがきっかけで、それ以来中丸と4人でいることが多かった。
「ねー、たっちゃんと会うのすごい久しぶりな気がする!いま帰り?」
「いやいや、かめ、その前に俺がおまけみたいになってるから。そこちゃんと突っ込もうよ」
いつ会ってもかめの隣には赤西がいる。
つーか、かめに電話かけたときもしょっちゅう、二言目には『いま赤西といるよ』って聞く気がする。
かめは赤西といるときが一番楽しそうに笑う。そして、赤西もまた、そうなんだと俺は思う。
.
最初のコメントを投稿しよう!