合い鍵

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振り返りもしないまま、中丸は弱い口調で呟いた。 「‥…心配、した」 離されないままの手首から伝わったのは、奮えてる指先でも、ヘタレだってことでもなくて。 「…いや、あー‥…ごめん、悪かった、よ。心配、かけて。」 中丸の、やさしさ。 「…もう、急にいなくなるのとか、なしな」 言って、俺の手首を掴むその指先にまた、中丸は力をこめた。 「じゃー、中丸俺のボディーガードね!」 重たい空気がちょっとでも明るくなるかな、なんて冗談めいたふうに言ってみたけど、中丸は静かにうん、って頷くだけだった。 「‥えーと、ほら。俺、なんか”そういう目”で昔からよく見られるからさ、さっきみたいに変なヤツとかもホントよく寄ってくんの。 なんか、それに対してとくになんとも思ってないし、だから中丸あんま気にしなくて…」 大丈夫だから、って言おうとしたのを遮って、中丸は振り返ると、決意したみたいに俺に告げた。 「上田は、上田だから。 俺はちゃんと、お前をお前として見てるから。」 あの言葉が、俺が中丸に抱く感情の、直接の原因になったかどうかはわからないけど。 あの日から少しづつ、俺のなかの何かが確実に変わっていった。 「たっちゃん!」 ひとりの帰り道、後ろから聞こえてきたのはわかりやすくご機嫌そうな友達の声。 振り返った視線の先、友達の隣に立つそいつの存在に、弾ませた声の理由ならすぐに理解した。 「かめ!‥と、赤西ー。久しぶりー!」 軽く手を上げて応えれば、嬉しそうに駆け寄ってくるかめ。 その後ろを見守るように歩く、赤西。 ふたりとは高校は別々になったものの、中学時代からの友達関係はいまなお続いてる。 学年は俺のひとつ下のかめと赤西だけど、体育祭で同じチームになったことがきっかけで、それ以来中丸と4人でいることが多かった。 「ねー、たっちゃんと会うのすごい久しぶりな気がする!いま帰り?」 「いやいや、かめ、その前に俺がおまけみたいになってるから。そこちゃんと突っ込もうよ」 いつ会ってもかめの隣には赤西がいる。 つーか、かめに電話かけたときもしょっちゅう、二言目には『いま赤西といるよ』って聞く気がする。 かめは赤西といるときが一番楽しそうに笑う。そして、赤西もまた、そうなんだと俺は思う。 .
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