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きっかけは、些細なことの積み重なりだったと思う。
おはようございます、と現場に入る声が低く周りには聞こえたらしい。
その瞬間からご機嫌伺いされるようになる。
話し掛けられたことに気付かなかった。
悩みでも抱えてるのかと、まるで腫れ物触るみたいな扱いが始まる。
365日、同じ顔して笑ってる奴なんかいない。
完璧じゃない。
じゃあどうして。
「俺ってどんな人間に見えてんの」
ああヤバイ、思ったときには遅くて。
運転席に身を沈めてた赤西が、煙草を消した。
「…なんかあった?」
「いや、ごめん。勝手に口から出た。」
「ねえだろ、んな事。気になるから、ほら。」
言って、横目で俺に話しを促す。
「ほんと大丈夫だし…」
「かぁめ。」
赤西は窓際にひじ突きをして、自分のくちびるに指を宛てる。
赤西がそれをするときは、何かを決めたとき。
この場合なら、俺の話しを聞くことを決めたんだろう。
俺は、纏まりのない話しを、感情のかけらを拾いながら、ひとつひとつ、ゆっくりと伝えた。
涙のひとつ、でないけれど。
ただ、ゆっくりと。
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