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「やー、可愛いなあ手越は!稽古中とかもヤバイときとかあったし」
「あれっ、あれあれ。亀梨さん、ちょっといまの問題発言ですよー!!」
「ちぃがっ!そういうんじゃなくてっ!!」
「ムキになるところがますます怪しいー!!そういうのいいんですかー!」
完全に男子校と化している楽屋内には、色気のカケラもないなあとぼんやり思う。
かめとはしゃぐ上田はやっぱり楽しそうだ。
俺は俺で、休暇はこうして増田やら友達と過ごしたり、上田には上田の時間があって。
それが悪いことではない筈なのに、何がたりないんだろう。
気持ちが通じ合ってから、電話もメールも付き合う前より随分増えたのに。
「あ、」
――もしかして。
上田も同じことを感じていたのだろうか。
はあ、ゆっくりと吐き出した息も白色に変わる午後18時。
上田をひとり待ち伏せる、彼の部屋のドアの前。
合鍵だって持ってるし、携帯だって忘れてきたわけじゃない。
メールも電話も、重要なのはそんなことじゃなくて。
そういうんじゃ、なくて。
「、なか、まる…?」
俺との距離が2メートルを切ったあたりで、上田に名前を呼ばれた。
視力のせいか、サングラスを外した上田は目を細めて焦点を合わせると、眉間にシワを寄せて俺を少し睨んだ。
そもそも自分の部屋の前に誰か立ってれば不気味だし、警戒心も含められた表情だったと思うけど。
「何してんの」
「…待ち伏せ」
言うと、盛大なため息とともに素早く開けられたドアの向こうに力いっぱい押し込められた。
反動に踏ん張れなくて、玄関の壁に腕やら肩やらを地味に打ち付けた。
痛いけど、痛いって言えない空気だ。
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