Private lover.

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感覚を無くし始めていた耳に、ガチャン、と鍵を閉める音が聞こえた。 「あのさあっ、」 「‥はい」 ここで赤西とかだったら、強気に「なんだよ」とか言えるんだろうな、なんてどうでもいいことを思った。 「なに、合鍵忘れたならメールとかっ、」 「忘れてないよ」 「はっ?意味わか‥」 「忘れてない。合鍵も、携帯も。持ってなかった日なんか一日もない」 だけど。 「――ごめん、最近会いにきてなくて。」 ふわり、抱きしめたら冷え切った頬を上田の髪が掠めた。 「意味、わかんねえし」 低い声はやっぱり不機嫌だけど、言葉よりも素直な、俺のブルゾンを握る上田がすきだなと思った。 「俺らってさ、いっしょに過ごしてる時間トータルにしたら結構あるじゃん」 「…だから?」 「だから、俺さあ、間違っちゃったんだよね。すっげえ長い時間、上田といっしょにいれてるぞって」 「間違いじゃねえんじゃねえの」 「んや、間違ってた。 だって、俺の前でだけ見せてくれるホントの上田は、この部屋のなかでだけなんだよ。 時間じゃねんだよな。 大切なのはさ、ありのままの上田を知っていくことなんだよ」 「…知るって、いまさらじゃね」 「上限ないよ。だって、今日の上田のありのままは、明日の上田とは違うっしょ。 ――だから、合鍵くれたんじゃねえの?」 「…‥なんか中丸って、‥いいや。」 そう言いかけて、俺の胸元に顔を埋めた上田。 きっともう、続きは聞かせて貰えないんだろうけど。 それでも、愛しいきみの言葉なら、なんだって聞かせて欲しいと思ってしまう。 「なあ、なに?」 「いや、いい。 …黙って、キスさせろ。」 ――繋がっていたい。 電話より、メールより。 きょう感じたことを、ありのままのきみで話して。 俺はそれに頷くから。 そうしてまた、あしたのきみに会いにくるよ。 きみを愛してるって温度は、きっと電波なんかじゃ伝わらないんだから。 END.
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