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冷たい風が枯れ葉を巻き上げ、足元を叩いていく。夕方だというのに人影は見えず車の音すら聞こえない。
煤が染み付いて廃墟と化したその建物の前に立つ慰霊碑に、俺は白い薔薇の花束を供えた。
此処に来るのは何度目だろう?
――平成人類科学センター。
奇形や障害を持つ者を研究材料として此処に閉じ込め、揚句の果てに障害者だけが発病するという有り得ないウィルスを捏造し建物ごと焼いて処分しやがった。なんという馬鹿げた話だ。
しかし日本最後の肥満体だった父と、両性具有だった母は此処で出会い恋に落ちた。この愚かな建物がなかったら俺もこの世に存在しなかっただろう。
そんな勿体振るような有り難い命でもないが……。
此処が焼かれてから障害者に対する差別の目はより厳しくなった。俺達障害者は健常者から疎外され、差別からくる批難や暴力から逃れる為、都会から外れた不便な地域に固まって暮らすようになった。昔でいう部落のようなものだ。
ろくな仕事もなかったし夢も希望もない。俺が生きる理由――それは奴をこの世から抹殺する事、ただそれだけ。
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