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バタンと力任せにドアをあけた孝志は、営内のベッドの上でがたいの勝る俺を押し倒すとこう言った。
『なめんなよ……』
泣き入りそうな声。
必死に感情を抑えたそれは、初めて聞いたかもしれない。
飯から帰ってきたままの迷彩服姿の孝志は、きれいな顔に似合わず、意外な力強さで俺を押さえつけていた。
なされるがままの俺は、孝志の服の右腕に光る桜を見つめる。
これでいい、いやこれがいい。
「あんたを追って入ったんだ。いまさら、……、」
泣いてしまうんじゃないだろうかというような顔。それをさせているのは、俺なのか。
俺のため……。
「あんたが誰に惹かれたっていい、あんたがここに戻ってくれば……」
消え入りそうな声。心が痛い。
「無理だよ、孝。」
俺は、頑なに言い張る。
孝志は、悟ったのだろう。
「最後ぐらい、好きだっていいやがれ」
唇に触れるかふれないかの口づけをし、孝志は離れた。
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