第一章 case A 織畑明日摩の場合

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 語彙が少しばかり足りてない俺は、そのロビーを表現するのに『豪華』としか言うことが出来ない。  本当なら、大理石がどうのこうのとか、そういう形容が正しいのだろうけど、俺には無理だ。  しかし、敷き詰められた絨毯や、天井のシャンデリアは俺が見てもいかにもリッチで、世界が違うものだということは理解できる。  さすがフィーナリアホテル。  どうにもならない格差を感じつつ、俺はその『豪華』なロビーを抜けて、エレベーターへと向かう。  ここのエレベーターは四機設置されていて、どれも世界記録級のスピードを誇っている。  しかも、中は全く揺れないという、最先端技術をひしひしと感じさせてくるものだ。  ……ん。  偶然にもエレベーターは全て上階へ とお出かけ中だ。上のボタンを押し、上を向きつつ、待つ。  本当にここは、どこもかしこも惜しみなくオカネが使われている。  トイレ一つだって、下手すればトイレ内だというのに、普通のホテルのスイートルームより綺麗で、住める部屋となりうるかもしれない。  それがフィーナリアホテル。  そして、俺はエレベーターが一階に到着したのを確認すると、一歩下がる。降りる人が先なのは、当たり前。 「──明日摩様。おかえりなさいませ」  大きく開かれたエレベーターの扉の向こう、海のような青い色の瞳の視線が俺に向き、その瞳の持ち主は深々と、俺に一礼をした。  同時に垂れる金髪も、染めたものではない純粋なブロンド。 「チェイシー、今誰か上にいる?」  北都チェイシー。  フィーナリアホテル従業員筆頭。  外国人であっても、日本語が下手な若者よりも上手い、ペラペラ。  毎日のようにこのホテルに出入りする俺にとっては、彼女はすっかり顔なじみだった。チェイシーも最近では『ホテル従業員』ではない笑顔を見せてくれることもある。 「はい。今なら舞華様がおられます」 「ありがとう」  それだけ言って、チェイシーは再び恭しく一礼。そして、フロントの方へと早足で去っていった。  珍しく、忙しいようだった。  会話がなくて、少し残念と思いつつ、エレベーターの中に入り、目的の階のボタンを押す。  エレベーターが静に動き出し、少し物思いに耽る。
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