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「で、それはなんだ」
通された屋敷の濡れ縁で、訝しげな視線と共に寄越された言葉に、挨拶のきっかけを逃してしまった。
「どこで拾って来た」
青年は狩衣を身に纏い、黒く艶やかな長髪を背で怠惰に結い、その上に烏帽子を被り、柱に背を預けていた。
「博雅?」
ゆっくりと立ち上がった青年に、不信げに覗き込まれ、はっと我に返る。
知らず優雅な姿に見とれていた。
「おっ、おう。戻り橋の袂に倒れておったのでな。不思議な身形をしておるし、気を失っておったので捨て置くわけにも行かず、ひろっ……連れて来た」
青年は聞くが早いか、室内に入りながら奥に声をかける。
「藤蜜、紅葉。床の用意を」
呼ばれて姿を現した二人は、顔見知りだった。
藤蜜は典雅な美しい女で、紅葉はまだ顔立ちに幼さの残る元気な女童。
二人は楚々とした動きで、しかし手際良く几帳を回し床を整える。
「博雅、ここへ……その荷も下ろせ。重そうだ」
「おっ……おう」
博雅と呼ばれた男も室内に入り、抱き抱えていた物……気を失った少女を、床に寝かせた。
ついでに肩から提げていた、奇妙な袋も脇に下ろす。
「この者は、何者だろう?」
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