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私がナラと逢ったのは二年前の夏……もうすぐ梅雨が明けるという頃だった。
「あぁっ……」
30分に一本のバスの後ろ姿を見送って、私はポツンと立つバス停の横にしゃがみ込んだ。
『桜ノ宮高校』は、各駅停車のローカル線沿いにある。
三方を山に囲まれ、門から校舎まで続く坂道の両側には、その名の由来となった桜の樹が植えられている。
生徒の殆どは地元の子達で、皆徒歩か自転車通学だ。長閑で人懐こい、いい人ばかりだが、わけありでここに来た私は正直馴染めないでいた。
学校の周りにあるものといったら、近所のおばちゃんがやってる鯛焼き屋か、色のハゲた暖簾が掛かった古い中華店くらい。
不便なバス通学を選んだのは、一時間に一本の更に不便な電車通学を避けたからに過ぎない。
「わっ……」
ポツポツと落ちてきた雨粒に、私は慌てて桜の樹の下に駆け込んだ。
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