65人が本棚に入れています
本棚に追加
止まない雨……他に雨を凌ぐ場所もなく、私は正体不明の『ナラ』と並んで樹の下に立っている。
(呉服屋の若様か何かだろうか……?)
「君……あの学校の生徒?」
「……そうだけど……」
「この辺りの子じゃないよね?」
「……」
無言のままうつむく私に気を悪くする様子もなく、ナラは視線を上に向けた。
腕を差し伸べ、雨の雫を受けながら、楽しげに鼻歌まで歌っている。
不思議な旋律だった。
何処かで聴いた気がするのに思い出せない。
妙に心地よく響いて、私は目を閉じた。
不意に旋律が途切れ、ナラが呟く。
「ところで……何が25分なの?」
「え……?」
私は目を開けてナラを見、腕時計を見た。
「わっ……」
一分前、見ればバスがすぐそこまで来ている。
慌てて樹の下から駆け出す。
バスに乗り込み振り返ると、樹の下にナラの姿はなかった。
最初のコメントを投稿しよう!