ナラ

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夏が過ぎ、秋が来て、紅葉がした葉っぱがすべて散ってしまっても、私はあの桜の樹の下で過ごした。 ナラは滅多に姿を見せなかったが、それでも時折気まぐれに現れては、他愛のない話をした。 「すっかり秋だね……」 相変わらず仕立てのよい着物をさらりと着て、ナラは吹く風に首を竦ませる。 この日の風は冷たかった。あと数週間もすれば、本格的な『冬』になるだろう。 「冬って苦手なんだよね~寒いし」 「夏も苦手って言ってなかったっけ?」 「そうだっけ?」 真面目な顔で言うものだから、何だか笑ってしまった。 冷たい風が吹き抜けて、それを追うようにナラが空に目を向ける。 つられて私も空を見た。 「秋は夕暮れ」と清少納言は言ったけど、朝でも昼でも秋の空は綺麗だと思う。 「私……お婆ちゃんの家で暮らしてるの」 ぽつりと呟く。 ナラは少しだけ首を傾けて私を見た。 私は空に視線を向けたまま、徐々に淡くなる青を見つめる。 「両親は家庭内別居状態で、たまに顔を合わせれば喧嘩ばっかりしてた……それを聴いてるのが辛くって、ここに逃げてきたの……」 「そう」と呟いたきり、ナラは何も言わない。 視界がにじんで思わず顔を伏せると、スカートにぱたりと雫が落ちた。 後頭部に置かれた掌が、あやすように髪を撫でる。 その手が心地よくて、よけい涙が止まらなくなった。

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