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その夜の日以来、俺は大宮と話す機会があまりなくなった。
俺は面接を受けたバイトの採用が決まり、居酒屋で深夜働くことになったからだ。
俺がバイトから帰ってくるころには大宮の部屋の明かりは消えていた。
ゼミでは、もともとあまり話すことがなかったから必要最低限しか会話しなかった。
それでも一度だけ、俺がバイトから帰ってきたときに偶然まだ大宮が起きていて、話したことがある。
大宮は、俺たちが噂していた内容を知っていたらしい。
あの噂、本当なんだ、と大宮 は小さく笑って言った。
中学校の卒業式のとき、大宮はクラスメイトの男子を呼び出して告白したのだそうだ。
上手くいくはずはなく、「気持ち悪い」の一言で奴の桜は一足早く散ってしまった。
「そんな奴の、どこが良かったんだよ、お前も」
と俺がこぼすと、大宮は本当に困ったように微笑いながら言った。
「わからないんだ、思い出せない」
そのクラスメイトのことが気になり始めて、それ以来、大宮はひとりで悩んだのだろう。
誰にも相談できずに溜めこんだ気持ちは、大きく膨らみ始めて、外へ出たいと暴れだしたに違いない。
「言わないと、自分が壊れてしまうような気がしたんだ、俺」
閉じ込められた思いはぐるぐると身体中を駆け巡って、自分の全てを吸収していったような気がする、と大宮は呟いた。
「本当にそいつのことが好きだったのかどうかも今じゃわからない。
だけどあの時は、俺はそいつのことが好きなんだって思ってた」
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