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……ああ、ここだったのか。
一部だけ新しくなったガードレールの脇に、花束が添えられていた。
俺は車から降りて、カーブの先に立つ。
2月の北斗七星は、まるで水を地上に与えるかのように大きく掲げられていた。
わかったような気が、した。
大宮が事故ったのは、この海と北斗七星を見ていたからだろう。
ぼうっとしては空ばかり眺めていた奴だ。星に見惚れていてカーブに気づかず、ブレーキをかけるのが遅れたに違いない。
「死に水、か……」
俺は苦笑して添えられた花を見つめる。花は寒そうに風に吹かれていた。
『死を司る星だったら、北斗のひしゃくがすくう水は死に水だろ?』
あの夜、あの海で、俺が大宮に言った台詞を俺は思い出す。
それから、大宮の夢の話も。
大きな、透明な巨人。
北斗の柄杓を掴み、地平線の彼方から水を汲んで、地上に撒く巨人。
芽を出した植物を、大事に育てたという巨人。
大宮がいなくなっても、何も変わらない。
北斗七星は変わらずぐるぐると回りつづけるだろう。
地平線に沈みかけてはやがて天高く昇り、再び沈みかけていく。
白い息を吐きながら北斗七星を眺めていた俺は、花束を拾い上げ、車に乗り込んだ。
乗り込むその寸前、突風が吹いて、むせ返るような潮の香りがした。
俺は振り返らずに車に乗り込んだ。助手席に乗せられた花束は、水の香りがした。
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