3人が本棚に入れています
本棚に追加
本当のことかどうか、真偽はわからなかった。誰もそのことを大宮に訊く奴はいなかったし、大宮の耳には届かないよう、陰でこそこそと話していたからだ。
大宮がその噂のことを知っているかどうかはわからなかった。
俺たちが何となく大宮を避けていたのを、奴も悟ったのだろう、大宮が俺たちに必要以上に親しくしてくることもなかった。
それが一転して、俺と大宮が親しくなるある出来事があったのだ。
ある夏の日だった。俺は嫌なこと続きで精神的にまいっていた。
実際、俺は辛かったのだ。
俺が大学に進学し家から出たことで、折り合いが悪かった両親の仲がさらに悪化し、離婚することになった。
加えてバイトで大きなミスをやらかしてしまい、クビになり、追い討ちをかけるように遠距離恋愛だった彼女にふられた。
憂さ晴らしに友人の家で飲むことになり、友人達が止めるのも聞かずにビールやらカクテルやらを飲みあさり、朝方にふらふらになって下宿先に帰ってきた。
だが、どうもドアを開ける寸前で俺は倒れて眠りこけてしまったらしい。
目が覚めたら、知らない部屋のカーペットの上で大の字になっていた。
仰向けのまま眼球だけを動かす。……部屋のつくりは俺の部屋とよく似ている。
「気がついた? 神崎君、俺の部屋の前で倒れてたんだよ」
声がして、その方向を見ると、大宮がいた。
どうやら俺は酔って部屋を間違え、隣の大宮の部屋の鍵を必死に開けようとしていたらしい。
もちろん、鍵があわないのだから開くはずがなく、何もかもが嫌になった俺はその場に倒れ込んで寝てしまったらしいのだ。
さらにこのとき、俺は初めて隣人が大宮だということに気づいた。
最初のコメントを投稿しよう!