ウォーター・オブ・ノース

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 大宮のことを、俺は何も知らない。  だが、実家はどういうところだとか、家族の構成はどうだとか、そんなことは別に知らなくてもいいことだ。  友人達と遊んだりするのとは別の意味で、大宮といると居心地が良かった。  大宮が時折みせる、人の顔色をうかがうような表情や、やたらに遠慮してはっきりと物事を言わないことに苛ついたりすることはあったが、それもその時限りで、長く気にするほどの苛つきではなかった。  大宮のことが好きなのか、と訊かれると、俺は「わからない」と答えるだろう。  利用価値はある。  大宮は、頼めばまず、頼みごとを引き受けてくれるし、時々とろとろしてドン臭いヤツだなと思うことはあるが、頼んだことはちゃんとやってくれる。  大宮は自炊していて、飯の味もそれなりだし、生活費に困ると大宮の部屋に転がり込めば、何とかなった。  大宮に愚痴ったりもするが、それは身近に手頃に愚痴る奴がちょうどいなかったというだけで、大宮でないといけないわけでもない。  では、俺にとって大宮は、利用できるだけの存在なのかと訊かれても、俺は「わからない」と答えるだろう。  居心地はいいのだ、確かに。  大宮さえ良ければ、そして俺が、大宮を良く思っていない他の友人の目を気にさえしなければ、大宮と一緒に暮らしたっていいと思っていた。  下宿費用も浮くし、そっちのほうがどう考えてもいい。
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