ウォーター・オブ・ノース

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 小馬鹿にしたように口の端をつりあげて笑う俺を見て、大宮も小さく笑う。 「神崎らしいっていうか、何ていうか。ロマンないなあ」 「悪かったな。そういうお前こそ、もうロマンだの何だのに浸ってる年頃じゃないだろ」 「そうだけど……」 言葉を濁した後、大宮は夜空を仰いだまま言った。 「夢を見たんだ。  大きな、透明な巨人が、北斗七星を掴んで、それで北の地平線の向こうにある泉から水をすくうんだ。  それから、その水を大地に向かって撒くんだ。  その水が撒かれたところからは、春になったら新しい植物が芽を出して……、巨人は大事に、その植物を育ててた」 「ヘンな夢だな、ロマンチックっつうか、お伽話っつうか」 俺がくくっと笑うと、大宮は視線を俺に移し、ぽりぽりと頭を掻いて照れくさそうに言った。 「俺もそう思うよ、なんでこんな夢見たんだろ」 北斗七星について交わした会話はそれだけだった。  後は他愛もない世間話や大学の話をしていたのだろう。何を話していたかよく覚えていない。  ただ、この北斗七星の会話だけが、その後も俺の中から消えてくれなかった。  夜中をとうに回り、3時になると空気が冷え込んできて、さすがの大宮も寒くなったらしい。  車に戻るか、と俺が声をかけると、奴は静かに頷いて俺の後について歩きはじめた。
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