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「……」
俺がまじまじと大宮の顔を見つめたものだから、大宮も視線を悟って俺を見つめ返した。
大宮の白い肌が、まだ太くはない月の光に照らされて、ぼんやりと青白く浮かんで見える。
それがまるで、この世のものではないような気がして、俺は大宮の頬に手を伸ばした。
大宮は驚いたように目を見張って俺の目を穴が開くほど見つめる。
むせ返るような潮の匂いが消え、水のような香りがした気がした。
沈黙が世界を支配していた。
俺と大宮は、暫くの間見つめあったままだった。
大宮の唇が、何か言葉を紡ごうとしたのか、かすかに動く。
俺は大宮の頬に当てた手を、大宮の髪へと移動させた。
大宮の、柔らかくてさらっとした髪の上に、うっすらとだけ、俺の腕の影が落ちた。
それから俺は立ち上がり、さっきまで大宮の頬に髪に触れていた手で転がっていた懐中電灯を拾い上げると、何も言わずに歩き出した。
今度は大宮を待つことはせずにただ車に向かって歩く。
立ち止まることはしなかった。
波の音がやたらとうるさい。
何かを急かす夏の海を思い出させるような、そんな音だった。
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