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ポツリポツリと雨が降る。
「毎日毎日雨ばっかり…」
傘をさして隣を歩く亀の字は溜め息混じりに呟いた。
「亀の字は雨が嫌いか?」
「嫌いだよ…ジメジメするし…梅雨だから仕方無いって分かってるんだけど」
ムスッと口を尖らせる相手に苦笑しなが
らも俺はゆっくりと歩いた。
しばらく歩いていると小さな公園に辿り着いた。
「紫陽花だ…」
二人して視線を向けた先には淡い色をたたえた沢山の紫陽花が咲いていた。
「綺麗やな」
近付いて花にそっと触れる。淡い青色をしたその紫陽花は隣に立つ亀の字の目と似た色をしていた。
「知ってる?紫陽花の色ってね、土の養分で決まるんだって」
同じ花に触れて、青はアルカリ性、赤は酸性なのだと亀の字は得意気に教えてくれる。
数分の間、二人で紫陽花を眺めていた。
一つ持って帰ろうかと言ったが、折ると痛くて可哀想だからと言われそれもそうだと諦めて。
「また明日見に来ようよ。」
「そうやな、また明日見に来るで」
ニコリと笑い紫陽花の花を優しく撫でてやる。
いつの間にか雨も止み、雲間から溢れる日の光が花弁に付いた雨粒をキラキラと輝かせて、まるで微笑んでいるように見えた。
「金ちゃん見て。虹が出てる」
亀の字に促され紫陽花から空へと視線を巡らせる。
そこには紫陽花と同じ色をたたえキラキラ輝く虹があった。
隣を見れば空を見上げ青い目を細めて笑う亀の字の横顔。
梅雨はさほど嫌いでもない。
降る雨粒が光を反射して色々な物を綺麗に見せてくれるから。
淡く綻ぶ
君の笑顔に似た
紫陽花の花
END
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