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しばらく沈黙が私たちの間に流れる。
「……なんで」
「え?」
それを壊したのは、扶仁だった。
「お前は残酷すぎるな……」
「……え?」
扶仁の顔を見た時、私はドキッとした。
泣きそうで、切ないような……そんな顔だった。
「扶仁……?」
「もう……我慢出来ねぇ」
悲しそうに揺れる扶仁の瞳が、私を動けなくした。
扶仁の顔が近付いてくる――。
屋上の時と同じように。
あの時のように叫べばいいのに、私は出来なかった。
こんな顔にさせているのは自分。
そう思うと、自分の体が思うように動かなかった。
チビだから、私が守ってやらなきゃと思ってたのに……
私が扶仁にこんな顔させてどうするのよ……?
不意にそんなことが頭をよぎる。
キスを拒否することよりも、扶仁のことを考えてしまう。
それは何故なのかは、今の私には考える余地などなくて。
ただただ、辛かった。
……なんでこんなことになったんだろう?
その疑問だけが頭の中をクルクルと回る。
――もう、扶仁の顔は目の前。
キスをされるというのに、何故か私の中に嫌悪感はなかった。
……確かにさっきまであったはず、なのに。
何でだろう――――?
……私の部屋の窓から差し込んでくる夕陽の光から生まれる影が、私達が重なった姿を映した――。
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