偽りの普通

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……でも、莉央に近付いて気付いた。 莉央が……、泣きそうな顔をしているということに。 その表情を見た瞬間、ぶっ壊されたはずの俺の理性が戻ってきた。 ――――まただ。 また、俺は莉央を泣かせようとしているのか? 莉央を無理矢理手に入れても意味がないのに、俺は何やってんだ……? 酷い虚無感が俺を襲う。 俺は莉央の唇に触れるギリギリのところで止まった。 「……? 扶仁?」 行動を起こすのが遅かった俺に、莉央を薄目を開いた。 「……私、今なら扶仁にキスされてもいいと思ってるよ? 私のせいでこんな顔させてるのだから……」 そう言って、莉央は再び目を閉じた。 それを聞いた時、俺は泣きそうになった。 「……冗談だよ。 誰がお前になんかキスするか、ばーか」 俺は莉央から顔を反らした。 莉央は好きで俺とキスするわけじゃない。 ただの同情なんだ…… 遠回しにフラレた気がした。 「つか、抵抗しなかったってことは、やっぱ俺に迫られて嬉しかったわけ?」 弱い自分は見せたくない。 そう思うあまり、俺は莉央に馬鹿なことを言ってしまった。 ……そんなわけ、ないのに。 「だとしたら――――」 「ふざけないで!」 パシン、と乾いた音が部屋に響いた。
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