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「――さて、私は戻るから。
どうせ、私が何を言ってもまたサボる気なんでしょ?」
立ち上がった私はそう言い、唯一の出口であるドアに向かって歩き出した。
「…………じゃねぇよ……」
「チビ? 何か言った?」
何か聞こえたような気がして、私はチビの方へ振り返った。
……だけど、チビはそこにはいなくて。
「――――っ?!」
突然、後ろから腰に何か巻き付けられた。
扶仁に抱き締められるというのだという事に、私は数瞬時間を要した。
扶仁の細くて白い腕が私の腰を包みこむ。
私はその状況だけ理解すると、扶仁の腕を振りほどこうと試みた。しかし、この細い腕は意外にも力強くて振りほどけなかった。
な、にがどうなって……?
この力強い腕は本当にあのチビ?
私はいきなりの出来事に混乱し、また扶仁の腕になす術がないことを知ってしまった。
そのおかげで私とチビの間に沈黙が走る。
…………それを破ったのはチビだった。
「俺はチビじゃねぇよ……
扶仁なんだよ、莉央……」
私の後ろからする、切なく切なすぎるチビの声。
「チ、ビ……?」
「扶仁って呼べよ……」
チビの懇願する声は、あまりにも切なすぎて。
私の胸を一気に絞めあげた。
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