蒼き吸血鬼

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今宵も又一人の女性がその者の青く美しい瞳に捕えられ、命の灯火を失おうとしていた。 血の様に紅い舌は喉を潤す温かな血の味を思い、チラリと覗いては唇を一度舐めた。 この者に名前は無い、昔に語られた名前ならあったのかも知れない、だが今その者の名前を知る者はいない、男自信も忘れさってしまった。 闇に住み、闇を支配し堂々たる姿からその者は何時からかこう呼ばれる様になっていた。 「闇ノ王」と。 薄暗い道を人目も無いのに、それでも貴族女性らしく綺麗に歩く美しい女性は、辺りを警戒しながらゆっくりと進む。 そんな女性の姿を高台から見下ろし王は静かに笑った。 闇夜に漆黒の美しい羽を大きく広げ音も無くその足は宙へと向かった。 緑に近い青く腰の下にまで伸ばされた艶な髪を揺らし女性は立ち止まり目に涙を溜め、首を小さくふった。 綺麗なエメラルド色の瞳は絶望を映し目の前に静かに現れた張り紙にある男を見つめていた。 手を伸ばせば触れる程の位置にまで近づき王は優しい笑みを女性に向ける。 「今晩は、今宵の月はとても美しい、貴女の肌程に白く妖しげに輝いている。」 誰もが魅了される優し表情で男は女性の首筋を撫でるように指をはわす。
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